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「ストップ」 ロイへと踏み出された足は、だが僅か一歩で停止をかけられた。 「……まだ何かあるんですか」 熱を持った下肢がじくじくと疼く。早く熱を解放してしまいたい。早く、目の前の肌に触れてみたい。 ―――――もう、判っているだろう? 肉体の焦りそのままに、ハボックが低く唸るような声を漏らす。 目尻が下がり気味の、常ならば温和な印象を与える青い双眸には、餓えた獣の光が宿っている。それにヒューズは満足したように口角を引き上げた。 「そうじゃねえって。……服を脱げよ、少尉」 「……え?」 「下着も靴も……ああ、靴下もだ。そこで全部脱いで見せろ」 「……」 それは、今この場で全裸になれということか。 さすがにそれには羞恥を感じずにはいられず、ハボックは言葉を失いこくりと咽喉を鳴らした。 「全部脱げ。……脱いで、全部見せろよ。お前がロイを見てどう感じているのかを」 その言葉に、はっとしたようにロイがあられもなく開いたままだった脚を閉じる。 腕の中にある恋人の様子に男の瞳が僅かに緩んだが、それはほんの一瞬だけだった。すぐに戻された男の目は相変わらず挑むような鋭さをもって、『命令』に戸惑うハボックを射抜く。 ならば悪趣味なストリップにも付き合ってやると、それでも誤魔化しようもなく強張る動きで、ハボックは無言のまま上着のボタンを外し始めた。 ボタンを全て外すと床に落として、腰に下げたガンホルダーを外す。それを足元に蟠る上着の上にゆっくりと置いてからオーバースカートを無造作に外し、黒のTシャツを脱ぎ捨てると均整の取れた体躯があらわになった。 武骨な軍靴を靴下ごと取り去ってしまえば、あとは下着とボトムだけだ。 「……」 ボトムに手をかけて、腹を括ったつもりでいてもやはり戸惑いに手が止まる。下肢の熱が治まる気配はない。二人の視線が自分にあると判っているからこそ、それを曝け出すのにはさすがに抵抗を覚える。 「少尉」 焦れたのか先を促す男の声に、考えるよりも先に身体が動いた。彼らから視線を外したまま下着ごと一気にボトムを下ろすと屹立した自身が勢いよく飛び出し、もの欲しげにふるりと数回揺れる。完全に勃ち上がっているそれに注がれる視線にいたたまれない思いがしたが、どうにでもなれという気持ちも強かった。 何よりも、彼に思い知らせたい。 暫くの沈黙の後、ロイの頬に自身の頬を寄せて、抑えた笑いをヒューズが漏らした。 「すげえ。想像以上じゃねえか?なあ、ロイ」 だが、ロイは何も言わずにただハボックを凝視していた。部下が自分に欲情している、その事実を受け入れきれずに。 「あれじゃ全部は入らねえかもな」 耳元を擽るヒューズの卑俗な言葉にびくりとして、ロイは慌てて部下から目を逸らした。 訳の判らない展開に頭が全くついていけない。 ヒューズがこの家にハボックを連れて来た理由も、ハボックがヒューズの傍若無人な指示に従うことも。 ―――――彼に見られてしまった自身の浅ましい姿も、彼の肉体の変化も。 何もかもが判らない。 いや、正確には判ってはいるのだ。ただ、それを事実として受け止めるにはあまりにも―――――。 「……服を着ろ、ハボック」 搾り出されるようにして発せられたロイの声に、ハボックの肩がぴくりと揺れた。 「服を着て、今すぐこの家から出て行け。……今すぐに、だ」 その声の硬さに、ハボックの視線が小さく揺らいだ。間違いなく怒りを含んだ声音。その声に普段ならば怯んだかもしれないが、今は違った。ハボックがゆっくりと視線をロイに向ける。 だが、彼はこちらを見ていなかった。僅かに目線を外したその姿に、何だ、と嗜虐心が湧き上がってくるのが自分でも判る。 何だ。 あんた、俺の方を見ることができないんですか。 「……中佐には女みたいにしなだれかかって、俺には出て行けってんですか」 「!!」 「……帰りませんよ、俺」 愕然としたように見開かれたロイの双眸が、ようやくハボックに向けられる。その黒い瞳を真正面から見つめ返して、ハボックは感情の籠らない声で続けた。 「あんたのその命令には従えません。……絶対に、帰らない」 「な――――っ…!」 動揺する相手を無視して大股で歩み寄ると、ヒューズを振り払い逃げる間すら与えずに、ハボックはロイを男の腕から奪うと容赦なく床に押さえつけた。 「い…っ…!」 バン、と乾いた音が室内に響くほど強く背を打ちつけられ、衝撃にロイの呼吸が一瞬止まる。 「おい、少尉……」 「何ですか?これはあんたが持ちかけたゲームでしょうが!」 さすがに眉を寄せたヒューズに、ハボックは押さえつける力を弱めることなく口調を荒らげた。乱れた前髪から覗く青い眼がヒューズを睥睨する。 「……俺次第で、いいんでしょう」 主導権を握っていた筈のヒューズですら呆気に取られるほどの豹変ぶりに、ロイも息を飲んでハボックを見上げた。 「……は」 一瞬間ばかりハボックを見つめていたヒューズが、呆れたように小さく吹き出した。それはすぐに声を立てた笑いに変わり、おかしくてたまらないと言いたげに腹筋を揺らす。 「図体はでかいが大人しい忠犬だと思っていたのに、とんだ狂犬だな。……そういう訳でロイ。ハボック少尉はこのゲームに大層乗り気だ」 「ふざけるな!何がゲームだ!?お前たちは一体……おい、ヒューズ!!」 「少尉があんまり健気にお前さんを見ているからな」 「……?」 訳が判らないという表情を浮かべるロイの頬に、男の手が伸ばされた。そしてハボックに拘束されて身動きの取れないままの彼に、ヒューズは身体を折って息が触れ合う距離まで顔を近付ける。 「……気付いていたんだろ?」 「何を、だ!」 唸りを上げて拘束を解こうとロイが身を捩る。 「いい加減離せ!ハボック!」 この状況に陥った理由をまるで理解できていない様子のロイから顔を離すと、ヒューズは怪訝そうにハボックを見た。そしてまたロイを見て肩を竦めた。 「気の毒になあ、ハボック少尉」 「……少し黙ってて貰えませんか」 ハボックの低い声に、ヒューズは「……こっえーの」とまた肩を竦めて二人の脇に腰を下ろした。 「もう、待ては解除でいいんでしょう?」 挑むように掠れた声でヒューズに問えば、男は器用に片方の眉を引き上げて見せた。 「……やめろ」 微かに怯えを含んだ声に、どうしようもなく欲望が膨らんでいく。押さえつけたロイの腕の感触すらたまらなくて、ハボックはゆっくりと、だが確実に自身の熱を思い知らせるように下肢を落としていった。 剥き出しの互いの肌が触れ合う。 「ハボック!!」 衰える気配のない男の熱に慄くロイに構わず、青い瞳は近付いてくる。 「嫌だ……!」 だが、拒否の言葉はハボックの唇によって遮られた。 |