塞いだ唇は想像していたよりも薄く感じられた。

それでも今まで重ねた女たちの唇より遥かに甘いその感触に、ハボックは我を忘れて貪り続けた。歯列をなぞり、逃げを打つ舌を執拗に追い絡め、彼の口腔へと唾液を流し込む。彼の口端から飲み込みきれなかった唾液が筋となって流れても、解放することなく幾度も角度を変えて蹂躙した。

「……う……」

息苦しさからか首を捻ってそれから逃れようとするのを許さずに、拘束していた腕を離すと両手で彼の小作りな顔を挟んで固定する。
すぐに解放された腕がハボックの肩や胸を叩いて押し返そうとしたが、ただでさえ圧倒的な対格差のある相手に完全に圧し掛かられては大した抵抗にもならなかった。

「は……」

存分に味わった口腔を解放すると、ロイから小さな声が漏れた。性的なものを含む掠れた吐息のようなそれにハボックの心拍数が上がり、同時に下肢が顕著な反応を示す。
押し付けられた昂りが更に硬度を増したことに気付いたロイが、ぎくりとして圧し掛かる男を見上げた。

「無理、だ」

強張った声に伴って、ハボックを押し返す腕に力が籠る。

「……無理だ、ハボック」

抵抗しても無理だと諦めたのか、それともハボックを宥めさせようとしているのか。聞き分けて欲しいと懇願するような口調のロイに、ハボックよりも先にヒューズが答えた。

「怖がらなくても大丈夫だ。きちんと慣らせば入る」

それまで黙って傍観していたヒューズの声に、ロイの視線が泳いだ。首を捻って男を見上げようとしたロイを許さず、ハボックは手に力を入れて強く固定すると視界を塞ぐようにまた口づけを落としていく。
黒い瞳が助けを乞うように、傍らにある存在に向けられるのが嫌だった。

口づけの仕方も、愛撫する手も舌の感触もヒューズとは違う筈だ。
今、彼を抱いているのが誰なのかを思い知らせたい。


そのまま細い顎から無防備な首筋へと唇を辿らせ、輪郭をなぞってから耳の裏へと舌を這わせる。ぴちゃりと音を立てて耳の中に舌を挿し込んだ途端、ロイの身体がびくりと震えた。
それに気をよくして、首筋に顔を埋めたまま彼の身体に両手を這わせていく。腹まで捲くり上がっていたシャツの上を滑り、滑らかな肌の感触を愉しみながらその下へと潜らせる。小さな胸の尖りを直に摘み上げると、慌てたようにロイの手がハボックの手首を掴んだ。

「……大佐。いい加減、諦めてもらえませんか」

首筋に埋めた顔はそのままにハボックが目だけをそこに向けて言えば、ロイは更にその手に力を込めた。

「お前こそいい加減にしろ!ヒューズに何を唆されたか知らないが、お前がしているのは……!」

そこでロイの怒声が不意に切れ、手首を押さえる力が消えた。何だと顔を上げたハボックよりとほぼ同時に、ロイが憤りに声を荒らげる。

「ヒューズ!」

抵抗するロイの腕を拘束するヒューズが、抗議の声を上げる彼に構わずハボックにシニカルな笑みを見せた。

「いいから続けろよ」

「……」

言われなくても、もう止める気などない。
ヒューズを射殺さんばかりに睨みつけるロイに絡むシャツを乱暴に剥ぎ取ると、余すところなく晒された滑らかな肌に自身の身体を重ねる。
両手で彼の裸身を抱きすくめて、愛撫を再開させた。





この時の自分は、目先の欲望だけに囚われて他のことなど何も考えていなかった。

彼がどれだけ傷ついているのか、どれだけの怒りと恐怖を感じていたのか。頭の片隅では理解できていても慮れるほどの余裕はまるでなくて、ただ得られる桁違いの快楽に浸ることしか考えられなかった。





「ハボック……!」

やめてくれと縋るような声で名前を呼ばれたが、動きを止めることはできない。
先端を小さな窄まりに押し込めば、そこから一気に快感は広がっていく。

「く……!」

「……もう少し、ゆっくりだ。がっつくな」

性急な挿入に男の制止がかかる。
早く彼の中に埋めてしまいたい衝動を抑えて、ヒューズの指示、それから直接感じる結合部の抵抗に、ハボックは動きを止めて荒い呼吸を整える。

「……!」

やがてまた少しずつ身を進めていくと、今度はさほど抵抗もなく奥まで入っていく。思っていた以上に深く身を穿たれたロイが息を飲んだ。

「いい子だな」

ヒューズの言葉はどちらに向けられたものなのか。
それを理解する余裕はなく、耐えかねたハボックが腰を使い出した。

「う、あ…!」

繋がった箇所から駆け上ってくる快楽に掻き乱されて、夢中になって腰を振り、同じように感じて欲しくて刺激に勃ち上がる彼自身を扱き上げる。

ロイを縫いとめていた男の存在すらもう意識の中にはいなかった。
歯を食いしばって動きを更に速めていく。



頭の中がぐちゃぐちゃだ。
歪んだ征服欲と、膨れ上がる嗜虐心。その中に確かにある彼への愛情と。



「やめ……!」

彼の悲鳴を無視して柔らかな最奥まで一気に穿つと、そこで昂りが弾けた。吐精の余韻のまま数回揺するように突き上げ、一滴残らずロイの体内へと注ぎ込む。

「は……」

放出を終えても、まだ物足りない。
僅かな間ハボックは肩を喘がせて動きを止めていたが、ロイの体内に収めたままの自身はすぐに力を漲らせ、数回腰を蠢かせれば完全に屹立した。
自身が放ったものの滑りを借りて、再び激しい律動を開始する。

「嫌、だ……!も……」

突き上げる動きの激しさに、ヒューズから解放されたロイの手が縋るようにハボックの肩へと伸ばされた。
それごと彼を抱き込んで、その身を穿つ。


ヒューズの手が明確な意図をもってロイに伸びてきたのは幾度目の放出の後だったか、それすらももう把握できていなかった。






自分が犯した罪の大きさをようやく――――本当の意味で理解したのは、泣き腫らした目を覆うようにして眠る彼の姿を見る、数時間後のことだった。