深く暗い闇の中を手探りで歩く。

素足で歩く足元はふわふわとして覚束なく、眩暈がしそうなほどの静寂の中、聞こえてくるのは自身の呼吸の音だけだ。ここがどこで、自分がなぜこんなところにひとりで彷徨っているのか。
現実を見て状況を把握しようとすれば、たちまち爪先から這い上がってくる恐怖に全身を包まれて身動きが取れなくなる。
だから何も考えない。何も考えず、ただ足を進めていく。

確かな存在としてあるのは指に絡む細い糸で、けれどそれはいつ途切れて消えてしまうか判らない。
糸が繋がる先がどこにあるかも判らないまま、ただこのままひとりきりになるのが恐ろしくて、壊れもののように大事にそれを手繰っていく。
この先に光があるのだと僅かな希望を抱いて足を進める。


置いていかないで。
消えてしまわないで。



出口はどこにもないと、判っていたけれど。


















腫れ上り、重い目蓋を漸く僅かに開けた。

霞み、横に細い視界に入ったのは力なく投げ出された自分の脚。
血と白濁した液体の伝う、汚らしい脚だった。

誰もいないこの部屋に、自分はシャツ1枚を纏っただけの惨めな格好でぼんやりと座り込んでいる。


一体どうしてこんなことになったのか。
自分には判らない。見当すらつかなかった。


彼に呼ばれてこの家に来た。緊張はしたけれど、楽しい時間を過ごした。
彼は相変わらず優しかったし、促されて手を出したケーキも紅茶も美味しかった。

だけど、この部屋に入ってからは違った。空気は変わり、彼の双眸には昏い光が宿っていた。
気付けば殴られていた。
引き倒され、圧し掛かられた。
抵抗してまた殴られ、仕舞いには泣き喚いたようにも思う。後はよく覚えていない。
ただ苦痛だけが長くあった。


壁に寄りかかるように座り、汚れた両脚を投げ出して座り込んでいる。その体勢すらどうやって取ったのか判らない。
ただ、今ここに彼の姿がないことだけが救いだった。


かろうじで持ち上げた目蓋の隙間から時計を窺えば、 針は間もなく24時を過ぎようとしている。
そしてすぐに、かちりと言う小さな音を立てて針は12の文字を過ぎていった。

誰にも祝いの言葉をかけられることなく、19歳の誕生日は無残に終わりを告げた。