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目前にいる金髪の男前は、それは嫌そうに眉間に皺を寄せていた。 「……何つーか、お前の言ってることよく判んねえ。もっかい言ってみ」 彼らしくなく感情の籠らない声でぼそりと言う。 その様子に 『ちゃんと聞いてろよこの野郎』 と思わず心中で詰りながらも、拓海は自身を落ち着かせるように大きく息を吸い、そして全て吐き出すと口を開いた。 「だから!今日は俺が主導権を握らせてもらうっつってるんです。いつもいつも傍若無人な振る舞いをしてくれるアンタじゃなくて、今日は俺に主導権があると思ってください。…な訳で、今日のアンタは、俺のし、しも……えっと……下僕になってもらいます。あ、いや下僕です。今から、今もうすでに」 そう言って立てた人差し指を相手の広い額の真中にずくりと突き刺し、先制とばかりに拓海は言い切った。 「……はあ?」 どうしちゃったのお前、と額に指を突き立てられたままますます顔を歪めて怪訝そうな様子をあらわにする彼に、だが拓海は絶対に譲るまいと退く素振りを見せなかった。 「いいから、アンタは俺の言うことを聞いていればいいんです」 口元を引き締めいつになく強気で言えば、彼は軽く舌打ちしながらも了承したようだ。不快そうな色を隠しもせずに口を開く。 「それで?俺はどうすればいい訳?」 その答えに、拓海はよし、と人知れず心の中で肯いていた。 「……上からボタンを外して、シャツを脱いでください」 日が翳り、薄暗くなってきた室内に自分の声が微かに震えて響くのが判る。 ちくしょう震えんな、と己を叱咤しながらもこの馬鹿げた行為をやめる気にはならない。今は形勢逆転を狙う拓海が得た、唯一のチャンスなのだ。 「……」 啓介は面白くなさそうに薄い唇を僅かに尖らせ、それでも拓海の言う通りにシャツのボタンを外し始めた。あらわになっていく啓介の肌に、拓海の胸が一つだけ大きく跳ねる。 「……ほらよ」 裾に皺のよったコットンシャツを脱ぎ終えると、啓介はそれを無造作に放った。それから拓海にまた向き直り、次の指示を待つ素振りを見せる。 長身で均整の取れた体躯は、細いがしなやかで強靭な筋肉に覆われている。拓海もそこそこの身長に、仕事柄そこそこに鍛えられているという希望を含めた自覚はあったが、啓介や涼介には敵わない。 高い身長に見合った広い肩と、力強く浮き出た鎖骨の形が綺麗だと思わず嘆息する。薄らと割れた線の入る腹部には、くぼんだ臍のすぐ横に、炎をかたどったフェイクタトゥが入れられている。先週はこんなものはなかったから、今週になってから入れたものだろうかと拓海は思いながら視線をまた上へ戻した。 誇示するほどではないが、それでも薄らと隆起した胸の先に存在する小さな乳首が、肌寒さを感じてかすでに勃ち上がっている。 自分のものよりも幾分色は濃く、だが僅かに小さい。啓介も、そして涼介も、拓海の小さな乳首を嬲るのが好きらしく、いつも二人がかりで胸にしゃぶりついては充血しひりひりと痛みを感じるまで吸い舐め尽していく。そしてそんな執拗な愛撫に拓海が翻弄されることも多い。 「………」 ならば、啓介もこの小さな乳首を愛撫されれば感じるのだろうか。拓海がいつも彼らに翻弄され、小さな突起から得られるもどかしい快楽を啓介も感じるのだろうか。そんな疑念が拓海の脳裏を掠めた。 「……で?このまま俺は突っ立ってりゃいいわけ?」 次の指示が一向にないことに飽きてきたのか、啓介がつまらなさそうに口を開いた。 「……え、と……」 形勢逆転を狙っていたのは確かだが、いざその場面になるとどうすればいいのか判らない。彼らのように経験が豊富なら上手く主導権を握れるのだろうが、いかんせん拓海にはその経験は皆無だ。 思わず口から漏れてしまった頼りない言葉に、啓介はくっくと僅かに笑った。すると薄らと線が入るだけだったその腹部に、笑ったことで腹筋の線が綺麗に浮かび上がる。笑われたことよりもその浮き出たラインに見惚れている拓海に、啓介は今度こそ呆れたように鼻で笑った。 まずい、と拓海は我に返ると、あくまでも主導権は自分が握っているのだと言い聞かせながら、啓介に与える指示を必死に考えていた。 「ベッドに上がって、あ、足を開いて座って下さい」 「……了解」 どこか馬鹿にしたような声音だったが、拓海の指示に素直に従う。啓介は乱暴な動作でベッドに座ると、拓海に向かって長い脚を無造作に開いた。 ジーンズの中に収められた啓介自身は柔らかなままのようだったが、その大きさは取り出さずとも想像がつくほどに、厚みのある布地を盛り上げている。 「……最初はジーンズの上から、ゆっくりなぞって」 ありえないと思っていたこの機会を得て、拓海が啓介に突きつけてやろうと真っ先に思ったのが自慰行為だ。いつも彼らには様々なことを要求されるが、その恥ずかしい行為の中で、拓海が最も羞恥を覚えるのが二人の目の前でする自慰だった。 ねっとりと絡み付いてくる二人の視線を前に、自分の射精する瞬間を見せる。その屈辱とも取れる行為を相手にもさせることで、拓海は彼らに抱かれるようになってから失いつつある男としての自信を取り戻そうとしているのかもしれなかった。 少しはこっちの気持ちを味わえよ、と拓海が精一杯の報復を口にしたのだが。 だが、啓介はにやりと笑うとしれっと返してきた。 「なぞる?何を?どこを?」 「……!」 こんな時に、ジーンズの上からなぞれと言ったらアレしかねえだろうが!と拓海が心中で詰るも、啓介はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたまま動こうとはしない。 「………判ってんでしょうが、アンタ」 「判らねえよ」 怒りと興奮に語尾が掠れた拓海に、だが啓介は頭を振った。 「なあ藤原。俺は馬鹿だから、言ってくれなきゃ判らねえよ。……どこを、なぞればいい?」 きつい双眸が、下から挑発するような視線で拓海を貫く。 拓海の口から卑猥な言葉を言わせようとしている、その魂胆など判り切っている。だが主導権は渡せない。こくりと唾を飲み込むと、拓海は口を開いた。 男同士だ。何も恥ずかしがることなどない。そう何度も心の奥で繰り返す。 「……を、」 「……何?聞こえねえよ」 啓介なら即座に返してくるだろうと思っていた言葉がやはり飛んできた。拓海は踏ん切りをつけるように唇を強く噛むと、はっきりとした口調で言った。 「ペニスを、ジーンズの上からなぞって見せろよ。袋も一緒に」 満足したか、と言いたげな拓海を見て、啓介はもちろんだと口角を引き上げて笑った。 「……いいぜ。見ててくれよ」 もう一度挑発的な視線を拓海に送ると、啓介は骨の浮いた大きな手でゆっくりと自身の下肢を包んだ。その手が揉み上げるようになぞるたび、大きな性器がジーンズの中で蠢くのが判る。 ぐ、と袋の部分を拓海に見せつけるように掴んでは離す。硬度を増してきた性器を上下にゆっくりと擦り上げる。 「……っ…」 薄い唇から微かに漏れた吐息が、僅かだが距離を置いて立っている筈の拓海の背筋をぞくりと駆け抜けた。いつもは啓介に貫かれている時に、耳元で漏らされる吐息。だが今はこうして自身の下肢を弄り吐息を漏らす彼を、まるで勝者のように見下ろしている。 僅かに眉を寄せ、快楽を追う啓介の表情に拓海の下肢が疼き始める。 「……片方の手で、乳首を弄って」 拓海の指示に、ちらりと目線を向けてから、啓介は空いている手で小さな突起を摘み上げた。 「く……」 指の腹で捏ね、二本の指で摘んでは弾いてみせる。啓介の唇から快楽に滲んだ声が漏れるのに、拓海はまた小さく咽喉を鳴らした。 いつもは拓海が啓介や涼介にされるその行為を眺めているだけだというのに、彼らに与えられる熱が鮮やかに甦ってくるのだ。咽喉を伝い、両方の胸の突起を嬲り、臍を掠めて下肢の叢に辿り着く二人の大きな手。 思わず、ぶるりと背が震えた。もっともっと、彼から与えられる熱を高めたい。燻る熱を高め、放出したい。 「……もっと、大きく脚を開いて」 欲情に拓海の声が上擦る。啓介がちらりと視線を投げて、さらに長い脚を開いた。 「じかに握って。……出すとこまで、余さず俺に見せてください」 下僕扱いに敬語かよ、と啓介は腹筋を僅かに揺らしたが、それよりもこの遊びは思っていたよりも悪くないことに気付いた。拓海の顔は啓介に与える指示に羞恥し、また欲に煽られ紅潮しているのがたまらない。熱を孕んで潤む大きな瞳が自分を見つめるのも気分がよかった。 「……オッケ」 にやりと挑発するように笑い、焦らすようにジーンズのジッパーをゆっくりと下げる。下着ごと脚の付け根まで下ろすと、勢いよく啓介自身が飛び出てきた。先端が濡れたそれがふるりと揺れる。 「……!」 屹立したそれの大きさに拓海の息が一瞬止まる。口腔で愛撫をしたことなら何度もあるし、その身の奥深くまで埋め込まれていても、啓介自身の大きさにはいつも目を瞠る。 「……扱いていいだろ?」 拓海に見せ付けるように啓介が自身を手の中で弄ぶ。 こくりとまた嚥下をして、拓海は乾ききった咽喉を潤してから口を開いた。 「思いっきり、ぶちまけてください」 「藤、わ、ら…っ!」 啓介の声が上がっていく。同時に張り詰めた自身を扱く手の動きも早まり、いやらしい水音が室内に響く。 「もっと、近く…で、見てくれ、よ…!」 「……啓介、さん」 「もっと近く、で、俺が出すの、見ろよ…!」 懇願するような口調。そして自分の側に来いと目で誘われ、拓海はフラリと足を前に出していた。啓介の座るベッドのすぐ前に立ち、彼の開いた脚の間、だがベッドではなく床に直接座り込む。 ベッドとの段差があることで啓介の股間がすぐ目前となる。色を変え、血管を浮かべて屹立したものが拓海のすぐ目の前で揺れているのだ。溢れ出したものに光り、擦りあげるたびに脈打ちながら揺れる大きなそれに、知らずこくりと咽喉が鳴った。あれがいつも自分の体内へ埋め込まれているのだと思うと、下肢の奥まった部分が疼くように気になる。 その時だった。啓介の手がいきなり伸びてきたかと思うと、拓海のうなじを捕らえて乱暴に引き寄せられた。 「!」 鼻先に啓介の先端が突きつけられた次の瞬間、顔中に生暖かい液体がぶちまけられる。馴染みのある、だが好ましくはない匂いが鼻腔に広がった。顔を伝い滴るものに呆然と目を見開いていると、先程までの欲に濡れた表情から一変した啓介が顔を近付けて言い放つ。 「ブァ―――――――カ」 「……!」 やられた、と拓海が理解するも、啓介の行動はそれよりも早かった。精液に汚された顔を拭おうと上げた手を取られ、そのままベッドに倒される。 「啓介さん!」 「すっげ、やらしーなお前。俺がオナってるの、めちゃめちゃ真剣に見てんだもんなー」 両方の手首をベッドに縫いとめられ、啓介が全身で覆い被さってくる。 「感じただろ?」 耳元で囁かれ、拓海の背筋をまたぞくりとしたものが駆け抜ける。 「俺に抱かれたいって思っただろ?」 違う、と緩く頭を振りながら、だが拓海は胸の内では諾と答えていた。 啓介の言う通りだ。彼が自慰に耽る様を見ていながら、彼に抱かれたいと思っていた。同じ男で、いつだって主導権を握られ抱かれる立場に置かれていた自分を、他でもない自分自身が嘲っていたというのに。あの時、どうしてはっきりと彼らの手を拒まなかったのかと、幾度となく込み上げる思いに臍をかんでいたというのに。 「嘘をつくなよ、藤原。……じゃあどうして、お前のココはこんなになっちまってるんだ?」 「あ!」 すっかり勃ち上がり、ジーンズの締め付けに苦しむ自身を強い力で握られる。 「興奮しただろ?……言えよ。正直に」 「…う、……!」 「言えよ。俺に抱かれたいって思ったって」 啓介の唇が反らされた拓海の首筋に落ち、喉仏をやんわりと挟まれ、思わず咽喉がこくりと鳴った。 「俺が出すのを見て、たまらなくなりましたって。……言ってみろ、藤原。素直に言えば、めちゃめちゃ気持ちいいことしてやるぜ」 啓介の低音が耳に響く。 「啓介、さん……!」 たまらず蠢いてしまう腰に、啓介が鼻で笑うのが判った。 「言えよ」 膝で下肢の中心を弄られ、拓海は荒い息と共に、彼の望み――――自分の本当の望みを口にした。 「凄い匂いだな」 二度の放出を終え日もすっかり落ちた頃、帰宅した涼介が部屋に入ってきた。 「二回しかやってねえけど」 何てことはないとばかりに啓介が答える。 初めの頃は情事の後、もしくは情事の最中に入ってこられることに慌てたものだが、今では不本意ながら慣れたようで、放った後の脱力感もあってか拓海はぼんやりと涼介を眺めていた。 「アニキ、次やる?」 すっきりした、とばかりに啓介は立ち上がると衣服を身に着け始める。それを見て拓海もゆっくりと身を起こした。腰が僅かに痛むが、気分も頭の中もさっぱりしている。 出してしまえば終わりという男同士のセックスに、女を相手にした後のような情事の余韻は残らない。 「……ああ、じゃあ一回だけ、お相手願うかな」 室内に入ってきた涼介は疲れているようだったが、啓介の言葉にシャツのボタンを一つ外した。 だが、慌てたのは拓海だ。 「あの、涼介さん、疲れてるみたいだし、俺も……!」 「一回くらい付き合ってくれてもいいんじゃないか?啓介とは二回程度なんだろ?」 「あと一回くらい大丈夫だろ。付き合ってやれよ、藤原」 んじゃ俺はこれから赤城行ってくるわ、と完全に身支度を終えた啓介はFDのキーを指に引っ掛けると扉を開けた。 「ちょ、……啓介さん!」 「往生際が悪いな」 笑いながら、涼介はシャツを脱ぎ捨てた。 「あ、アニキゴム使うなら新しいのそこな」 「ああ」 「じゃーなー。ゆっくり楽しんでくれよ、二人とも」 ひらひらと手を振り、啓介は振り返ることもなく出て行った。 「……マジか」 余りにあっさりとした態度に、拓海は少なからずショックを受けていた。仮にもセックスの関係がある相手に淡白すぎはしないだろうか? 「残念だったな」 呆然と啓介の後姿を見送っていた拓海の頭上から、深みのある低い声が降ってきた。 「涼介さん……」 「痛むのか?」 「うわっ!」 足首を掴まれ、両脚を大きく広げられて拓海はベッドに上半身を転がせた。あらわになった下肢の中心を覗き込み、涼介はうんと肯く。 「大丈夫、大して赤くなってねえよ。一度くらいなら付き合えるよな?」 「ちょ、ちょ……!涼介さん!」 ならばと、どうにもやる気満々でジーンズと下着を下ろす美形の主に、顔を赤く染めながらも拓海は慌てた。 それに満足したように涼介は笑うと、机の引き出しを開けて中から一つの箱を取り出す。 「先に言っておくけど、手離す気はないぜ」 均整の取れた裸身を惜しげもなく晒したまま、ふいに涼介は未開封の箱を手に低い声で呟いた。 「……は?」 「お前、啓介のことが好きなんだろう?」 「……」 涼介の言葉に、思わず拓海は目を見開いた。拓海の反応に男が笑う。 「だけど駄目。俺もお前が気に入ってるからな。この関係はまだしばらくこのままだ」 ピ、という小さな音を立てて箱を包んでいたセロファンが剥がされる。 「もし啓介がお前の気持ちに気付いて、お前を独占したがったら話は別だけどな」 そう言って箱からゴムの入った小さな包みを一つ切り取ると、指の間に挟んで拓海に向けて振って見せた。 「だけど残念ながら、その可能性はそう高くはなさそうだ」 「……涼介さん」 涼介の手が伸びてくるのを、拓海はゆっくりと目で追う。試薬で荒れて、少しかさついた指先が拓海の身体に這わされていく。 ―――――畜生 胸の突起を指先で掠められ、小さな声が上がってしまう。 そんなこと、言われなくても判っている。啓介が自分にそれほど執着していないことなど。 「今はこっちに集中してくれよ」 涼介が苦笑する。自分で話を振っておいて、勝手なものだ。 「あっ…!」 啓介とは違う巧みな熱に攫われながら、拓海はこの二人にどう意趣返し―――というほど恨みはないが―――をしてやろうかと、そればかりを考えていた。 お前に惚れたと、二人に絶対に言わせるために。 |