「……」

知らず、こくりと咽喉が鳴る。
目の前に突きつけられた啓介の昂ったモノの大きさに、拓海は改めて慄いていた。啓介自身の根元に手を添えたまま身動きがとれない。
思わず助けを求めるように目線を上げると、そんな拓海の様子に気付いたのか、切れ上がったきつい双眸がゆっくりと細められた。拓海の怖気づいた心を嘲笑うかのようなそれに、よせばいいものをついつい負けん気を起こしてしまう。

「……判りましたよ。やりゃいいんでしょうが」

拓海が低く言うと、啓介は「お」とやはり面白そうに短く声を発した。
二、三度、啓介の昂りを擦り上げる。それから少しずつ速さを増して、雁の部分を時折キュ、と締め付けてやる。確か啓介はこの部分を愛撫されるのが好きだった、と過去の数回のセックスで教え込まれたことをなぞっていく。
口に含もうとした時、啓介の長い指に顎を捉えられた。

「判ってるよな?藤原。少しでも歯を立てたら、お前のこの細っこい顎、このまま砕いてやるからな」

そのまま顎を掴む手の力が強められ、拓海の眉が僅かに顰められる。

「俺の後にはアニキにするんだぜ。上手く出来たら、ご褒美にアニキがお前に気持ちいいことしてくれるってよ」

啓介の言葉に、思わず背後の涼介を振り返る。ジーンズと下着だけを身に着け、均整のとれた身体を壁に預けてこちらを見ていた涼介と視線が合う。すると涼介は器用に片方の眉を上げ、意地の悪い笑みを浮かべて言った。

「啓介に教えてもらったこと、ちゃんと俺に見せてくれよ」

啓介の脱ぎ散らかしたパーカーのポケットから勝手に煙草を取り出したらしい。その煙草を持つ手を立てた片足に預けて、怠惰な様子でベッドに座り込み口端だけで笑っている。そこには拓海が憧憬し尊敬した男の面影は殆どといっていいほど窺えなかった。

「啓介センセイのご鞭撻に従っていれば上手くなってるさ。まあ、ヘタなままならご褒美はねえから、頑張れよ」

今日の昼間に、Dの集まりで見せた冷静なリーダーの表情は欠片もない。今まで拓海に向けていてくれた、厳しいが優しさを感じられる笑顔を浮かべることもない。ただ、怠惰で――――それでいて肉欲を隠そうともしない怜悧な美貌を持つ男がそこにいるだけだ。

「何考え込んでんだよ。ほら」

筋を浮かべて勃ち上がっている啓介の性器に頬を叩かれ、ムッとしながらも拓海はそれを握り直して柔らかな唇を寄せていく。背後からの視線にも耐えられないものがあったが、この行為を承諾したのは自分だ。
羞恥を振り切り、啓介の昂りをゆっくりと咽喉奥まで咥え込めば、その淫らな行為に溺れていける。そして、淫らな行為に耽る自分の姿を背後から見つめる男が涼介であることに、間違いなく拓海は興奮していた。




啓介に半ば無理矢理抱かれたのが一ヶ月ほど前。性への好奇心と与えられる快楽に溺れ、関係を許容するようになったのはそれとほぼ同時だ。
幾度か身体を重ね、この日啓介に誘われるままこの家に来て、手荒く裸に剥かれたところへ涼介がやって来た。吃驚し思わず固まった拓海に対し、啓介が何の躊躇いもなく涼介を迎え入れたのを見て、拓海は漸く嵌められたのだと気が付いた。

ふざけるなと怒鳴ってみても啓介はそれすら面白がって話にならず、助け舟を出してくれるのではと期待した涼介からは想像もつかない卑猥な言葉を次々に投げつけられ、拓海はそれこそ卒倒しかけた。
ついには「めんどくせーなー」と啓介に足を払われ、全裸のまま無様に床に転がったところを涼介に押さえつけられた。
両足首を掬われ大きく左右に開かれ、何の準備も施されていないそこへ涼介の指が二本、強引に挿し入れられて余りの痛みに拓海の口から悲鳴が上がった。

「痛い?」

うんうんと声もなく肯く拓海に、涼介はそうだろうな、とさして興味もなさそうに呟く。

「大丈夫だって藤原。お前がいいコでいれば俺もアニキもひどいことはしねえよ。ちゃんとお前を気持ちよくさせてやるからさ」

「ちょ、ちょっと……!」

楽しいおもちゃを見つけたような啓介の笑顔に、狼狽する拓海の表情を楽しむような涼介の癖のある笑み。自分を上から押さえつけたまま飄々と話す彼らに、混乱したまま拓海は二人の顔を交互に見遣ることしか出来なかった。

「んっ……!」

ふいに、挿し込まれたままだった涼介の指が抜かれた。違和感が消え弛緩しかけたが、体内から抜かれた涼介の指が今度は項垂れたままの拓海自身に絡み、また息を飲む。

「や、やめてください……!」

「暴れるなよ。気持ちよくさせてやるって言ってるだろ?」

「そういう問題じゃないって……!」

身を捩り足をバタつかせてみるが、自分よりも大柄な二人に体重をかけて押さえつけられ振り解けない。さすがに焦り、終いには相手が涼介だろうが腹が立ってきた。

「やめろ!やめろったら!」

涼介の手で愛撫を施される内に、その刺激に拓海自身が緩く勃ち上がってくる。それを誤魔化したかった拓海が力の限りに暴れると、押さえ付けていた啓介がチ、と舌を打った。

「暴れるなっつってんだろ!?」

「……っ!」

きつい双眸を吊り上げ、押さえつけた腕を更に強く握り締めて拓海を怒鳴りつける。

「ったく判んねえヤロウだな。気持ちよくさせてやるっつってんだから大人しくしろよ!?お前、何だかんだ言って男とするセックス大好きじゃねえか。今更3Pが嫌だなんてぶってんじゃねえよ!」

「だ、って……」

全裸で押さえ込まれたまま浴びせられる怒声は、それを跳ね返す気力を削がれる。常ならば怯える小動物といったタイプとは縁遠い拓海だが、この場合は違った。怯え、身を竦ませる拓海に、だが涼介も容赦ない言葉を放った。

「……まあ、そういうことだな。俺たちの手を煩わせてくれるなよ、藤原。俺も啓介も面倒な奴は嫌いだからさ」

拓海を安心させる笑みも、柔らかな声音もない。淡々として言ってのける涼介に驚き目を見張る。だが自分を思いやるような深い愛情が怜悧な双眸にないのを察し、拓海は唇を噛み締めた。そして観念したかのように、目を閉じて身体の力を抜いていく。

「……ああ。お前はやっぱり素直ないいコだな」

くすりと、頭上で二人が笑う気配がした。

もしかしたら、啓介が今まで自分を『躾け』ていたのはこの日のためだったのではないか?この時になってようやく思い当ったその答えに、ちくしょう、と拓海は胸の内で毒づいていた。




「ふ、ん……っ……」

口の中で啓介の性器が大きさを増していくのに、拓海は必死で鼻で浅い呼吸を繰り返しながら舌を絡めて愛撫を施していった。僅かな塩辛さと、滲み出した体液の苦味が舌を刺激する。

「……上手いぜ、お前」

啓介が胸を上下させながら、声を掠れさせて囁く。

「それは楽しみだな」

背後から、やはり僅かに声を掠れさせて涼介が言う。自分たちの痴態に涼介も煽られているのだと判って、拓海の下肢がずくりと疼いた。更に啓介の性器への愛撫を強める。
どうしてこんなことを了承したのか、自分でもよく判らない。本当に嫌なら幾らでも逃げられた筈だ。彼らに対して妙な恐怖を感じたとしても、同じ男だ。がむしゃらに暴れれば、幾らでも抜け出せただろうと思う。

ただ啓介のことも、そしてもちろん涼介のことも嫌いじゃない。嫌いどころか、二人に対しては十分好意を抱いている。それに、きっと自分は知りたかったのだ。カリスマと言われ雲の上の存在のような彼が、どんなセックスをするのか。どんな表情で、声で、自分に触れてくるのか。それが知りたかった。啓介から与えられる快楽を貪欲に飲み込んだように、涼介から与えられる快楽を知りたかった。
『お前、男とするセックス大好きじゃねえか』
啓介に言われたあの言葉も、認めたくはないが事実なのだと思う。ただ、男とするセックスが好きなのではなくて、恐らく―――――啓介とするセックスが好きなのだと思う。だから、涼介がどんなセックスをするのか興味があった。この二人以外の男が同性とどんなセックスをするのかなんて、どうでもいい。

「脱がせてくれよ。藤原」

啓介に言われ拓海はぴくりと肩を震わせたが、手を伸ばしゆっくりと啓介の着ているシャツの前を開いていった。啓介の引き締まった体身体が露わになり、拓海はそっと胸へと唇を寄せた。小さな胸の突起を含み、緩く吸いあげ舌で押し潰す。両胸の突起を唾液で濡らすと、舌を突き出したまま臍へと落ち、そこへの愛撫を繰り返しながらジーンズを下着ごと取り去る。窮屈な衣類から解放された啓介の性器は体液と拓海の唾液に濡れ、次の愛撫を待っているようだった。

「……いいぜ。その次は……?」

啓介の息が僅かに上がっている。それに力づけられるように、拓海は捕らえた啓介の性器を再び口に含む。舌で先端をぐるりと舐め、そのまま舌先で筋を辿り根元の双珠までゆっくりと這わせる。

「へえ。結構上手く躾がなってるじゃないか」

「だろ?コイツ処女だし、最初はめんどくせえからどうしようかと思ってたんだけどさ。教え始めたらこれが結構可愛いんだよ。たどたどしい動きが苛つく時もあったけど、今じゃそれがかえってそそるっつーか。俺にしては根気よく教えたと思わねえ?」

とんでもない兄の発言も、啓介にとっては最上の褒め言葉らしい。どこか誇らしげに答える啓介に、拓海のこめかみがひくりと引き攣る。

「く……」

解放が近いのか、啓介の口から小さく呻きが漏れた。

「う、ん……くぅ…!」

拓海の後頭部を押さえ、啓介が腰を使い出す。咽喉を突き上げてくる怒張したものに、何度もえづきながら拓海が啓介の身体を押し返す。それでも必死に歯を立てまいとしている拓海に、啓介が褒めるように頬を撫でた。

「……っ!」

咽喉奥に熱い迸りを感じたと同時に、口腔を犯していたモノがゆっくりと抜かれていく。

「う、…げほっ……」

飲み込めなかった啓介の体液が、ベッドの上に零れる。汚してしまったシーツを咳き込みながらも手で拭う拓海に、啓介が口付けた。

「いいぜ、気にすんなよ」

口端を白濁したそれで汚す拓海に、そう言って満足そうに笑う。

「四つん這いになって、ケツこっちに向けろよ。ちゃんと舐めてやるから」

「え……」

そんなことを言われて体勢を変えられる訳がない。羞恥も手伝い躊躇う拓海に、背後から手が伸びてきた。

「涼介さん!?」

不意を突かれ、涼介によって拓海がベッドに転がされれば、それを啓介の腕が掬い上げうつ伏せへと身体を返す。

「ちょ、ちょっと!」

見事な連携プレーに、今までにもこの兄弟はこの手の犯罪を犯しているんじゃねえだろうな、と拓海はまたも心中で毒づく。腰を上げ白い臀部を啓介に晒し、慌てて起き上がろうとした拓海を押さえつけたのはやはり涼介だった。

「舐めてもらった方が痛くなくていいだろ?」

揶揄の含まれたその言葉に、拓海は顔を赤くしながらも啓介の愛撫を受け入れた。と、言うよりも、二人に押さえつけられ受け入れざるを得なかったのだが。

「う、ん……」

啓介の舌が尻の割れ目に沿って上下するたび、拓海の身体が快楽に戦慄く。
時折蕾に舌先を差し込まれ、吸い上げられるとびくびくと身体が跳ねた。ちゅ、ちゅ、といやらしい水音が聞こえてくるのも堪らない。

「もういいかな」

啓介の舌が抜かれ、代わりに指が二本差し込まれる。蕾が解れたことを確かめると、啓介はベッドサイドに放っておいたゴムを自身に被せた。
そこに涼介が声をかける。

「待てよ、仰向けにしようぜ。藤原が啓介のを呑み込むのを見てみたい」

兄の言葉に、啓介はにやりと口端を上げた。

「んじゃ、ご要望にお応えして」

そう言って、拓海の身体をまた返す。弛緩しきった拓海の両脚を掴むと、それを左右に大きく広げさせた。
二人の目前に、すっかり勃ち上がった拓海自身と薄く色づいた小さな蕾が晒される。

「うわ……!」

慌てて起き上がり、広げられた下肢を手で覆い隠そうとしたが、それを難なく涼介に押し止められた。上半身を背後から涼介に抱き締められ、頬を重ねられる。

「お前も見ろよ。自分のアソコが啓介のでかいの飲み込んでいく様をさ」

すぐ耳元を擽る涼介の品のない科白に、拓海は頭を振って拒絶する。

「ほら、入ってくぜ……」

「ん、く……!」

ずぶりと、狭い器官をこじ開け啓介の昂りが入り込んでくる。

「……見ろよ、藤原。すげえぜ。あんな小さな箇所が、啓介をいっぱいに頬張ってる」

耳元に唇を寄せ、煙草の匂いの残る熱い吐息を吹きかけながら涼介が囁くのに、拓海は目を瞑って頭を振り続けた。

「先端が全部埋まった。判るか?一番太い部分がもうお前の中にいるんだぜ。これでお前のいいところ、突いてもらいたいだろ?だったらもっと中に入れてもらわないとな?」

「やめ……涼介さ……」

瞳を閉じても、涼介が卑猥な言葉で様子を伝えてくる。そして言葉通りに、啓介の先端が全て埋まり奥へと入ってくるのが判った。

「あ、う…!」

突然勢いよく突き上げられ、拓海の身体が撓った。始めから余裕のないその動きに、必死に逃げを打つ拓海を涼介が抱え込む。

「あ、や……あ、あっ!」

容赦なく奥深くを突き上げる啓介に追いついていけず、ただ身体を揺さぶられる。

「……すげえな……」

欲情の色を含んだ涼介の声が耳を擽る。思わず目を開ければ、額に汗を浮かべ快楽に眉を寄せた啓介の精悍な顔がすぐ前にあった。
その表情と荒い息に、拓海もまた煽られる。細い腰を拙いながらも蠢かせ始めた拓海に、啓介が小さく呻いた。

「……くっ……!」

啓介の動きが更に早まる。

「あ、う……!」

激しく突き上げられ、上体がずり落ちそうになるのを、涼介の腕が支えてくれた。虚ろな視界に涼介の端正な顔が近付いてきたかと思うと、掠れた喘ぎ声を漏らす唇をしっとりと塞いだ。唾液を注がれ、必死に飲み込む。
そして啓介が数回、強く腰を突き上げ――――拓海の体内で欲望の白濁をぶちまけた。


ずるりと、拓海の身体が涼介の腕からずり落ちる。

「……すげえな、お前。……最高」

荒い息のまま、啓介が拓海に口付けた。そして拓海の背後に控える兄に声をかける。

「……アニキ、は?脱がしてもらう?」

啓介の言葉に、達したばかりの拓海も気怠そうに振り返る。

「――――そうだな。俺にもしてくれるか?」

そう言って涼介は手早く下着一枚になると、ベッドに座り込んだ。そして気怠そうに笑う。

「俺も結構キてるんだぜ」

涼介が拓海の手を取り、自身へと導く。そこは下着の上からでもはっきりと判るほど形を変えていた。

「舐めてもらわなきゃ勃たねえかと思ってたけど、凄いな。お前のいやらしい姿に俺もこんなになっちまった」

言って、涼介が口端で笑う。そして拓海の手を下着の横に持ってくると、啓介にしたように脱がすよう促す。そんな涼介を見上げ、こくりと咽喉を鳴らし力の入らない手でそっと涼介の下着を下ろす。勢いよく飛び出た涼介の昂りに、拓海は思わず息を飲んだ。
背後では啓介が微かに口笛を鳴らす。

「すっげえな、アニキの腹にくっつきそうじゃん。そんなに俺と藤原の見てて興奮した?」

「ああ。いいだけ煽られたぜ」

そう笑って、涼介は拓海の赤く濡れた唇を親指でなぞった。

「この唇が啓介のを咥えてるのは、視覚的にもかなりクるものがあったし、その後はアレだったしな」

兄の言葉に、啓介は満足そうに肯いた。

「だろ?」

そして先程の涼介と同じに、今度は啓介が背後から拓海の上半身を抱き締め、投げ出された拓海の両脚を、やはり今度は涼介が左右に割り開いた。

「悪いな。お前をもっと楽しませてやりたかったんだけど、俺ももう限界だ。……入れていいか?」

そう言って、涼介が昂りを体液で汚れた拓海の蕾に押し付ける。背中には昂りを取り戻した啓介自身が押し付けられ、ゆっくりと上下に擦り付けられていた。

「いいよな……?藤原……」

耳元で啓介が囁くのに、涼介の欲望に濡れた瞳を見つめながら拓海は肯いた。






まさに狂乱の宴、と言っても過言ではない交わりがようやく終わりを迎え、三人分の精液に塗れた拓海は脱力しきって横たわっていた。

「楽しかったぜ、藤原。まさかお前とここまで相性がいいとは思わなかった」

チュ、と音を立てて涼介が拓海の額に口付けを落とす。

「またやろうな。今度は俺ももっとサービスしてやるから」

にっこりと笑う涼介に、疲弊しきっていた拓海もさすがにぎょっとした。また?またって何だ?
驚愕に目を見開く拓海に、啓介は呑気に言った。

「マジで?アニキのサービスはしつこいぜー、覚悟しとけよ藤原ー」

「な、何言ってんすか!?」

素っ頓狂な声を上げた拓海に、二人が振り返る。

「何って。今度はもっとサービスしてくれるって言ってんだろ?お前とのセックスにアニキが満足したってことじゃねえか」

「な、な……!」

魚のように口をぱくぱくさせる拓海に構わず、啓介は兄に向かって話しかけた。

「初めて3Pってのしたけど、結構楽しいもんだなー。まあ、相手が藤原ってのと、アニキが一緒だったってのもあるけど」

「じゃあ、今度は四人でするか?」

「四人?あと一人は誰だよ」

「そうだな……。お前に入れ込んでたあの女の子。何て言ったっけな。あのコはどうだ?」

「あー…恭子?だけどあいつにはこういう遊び無理だろ」

「処女嫌いは藤原で治ったんじゃないのか?」

「治んねえよ。藤原は別だったけどさ」

だらしなく煙草を咥えたまま、啓介が拓海に向き直る。

「どうする?藤原。お前は誰がいい?やっぱお前も男だからさ、女一人入れた方が楽しいか?」

「……はい?」

誰がいいとかいう以前の問題だ。四人でする背徳行為になぜ自分がデフォルトで入っているのか。誰も了承していないというのに、この馬鹿兄弟はどうしてこう話を飛躍させるのか、理解出来ない。

―――どう説明すればこの二人は常識を判ってくれるんだよ!?

だが、そんな拓海の心中も知らずに啓介はのんびりと言い放った。

「お前の好みの女ってどんなの?好みのタイプ探してやるよ。あ、でも巨乳はパスな」

あんぐりとしている拓海をどう勘違いしたのか、啓介が続ける。

「アニキが嫌いなんだよ」

「悪いな。胸の大きな女は嫌いなんだ。一部のグラビアアイドルなんかのせいとは判ってはいるけど、頭悪そうだろ」

「昔からアニキは胸の小さい女ばっか相手にしてたもんな。実はロリコンなんじゃねえの?」

「そうかもな」

弟の軽口に、涼介はしれっと笑いながら同意する。啓介も「やべえよー、それ」などと言っているが楽しげに笑っていた。

「そういえばお前は俺とは反対で巨乳好きだよな」

「好き好き。だって俺おっぱい星人だもん。でっかい胸に顔埋めんのたまんねえし」

「馬鹿じゃねえのお前」

ははは、と楽しそうに兄弟は実にくだらない会話を続けている。

「じゃあ誰にする?藤原が知ってる奴で……男の方がいいか。須藤とかどうよ」

「……京一か?それは俺が御免だな。まあ、あの武骨な男に組み敷かれる藤原を見てみたい気はするけどな」

「ああ、それいいかも。ついでに緒美の制服でも藤原に着せちまうとか」

「いくら藤原でも似合わないだろ。細くても男の足だぜ。藤原、お前スカート穿きたいか?」

四人ですることなど了承した覚えもないが、思わず首を横に振る。

「な?」

涼介が言えば、啓介はうーんと唸って懲りもせず提案する。

「んじゃ、裸エプロンとか」

「だから笑い取ってどうするんだよ。普通にいきゃいいんだろ。……そうだな、藤原は学ランだったからブレザー姿とかなら結構愉しめるかもな」

「あ、いいねー。乱れた白いYシャツと解けかけたネクタイっての?レイプの後!みたいなヤツやりてーなー」

「懐かしいな。イメクラかよ」

「いいじゃんイメクラもどき。アニキ台本書いてよ」

「何で俺が」

「好きそうじゃん。ネクタイで緊縛とか主従関係ものとか」

「失礼だなお前この俺に向かって。痴漢ものが抜けてるだろ」

言って、また兄弟で顔を見合わせはははと笑う。

「いい加減にしてください!!」

そんな二人のやりとりに、堪らず声を荒らげた拓海を兄弟が仰ぎ見る。

「……っ…」

自分で大声を上げておいてなんだが、やはりこの兄弟に注視されるのは何とも居心地が悪かった。特に涼介の視線が怖い。啓介ほどではないが、やはり穏やかとは言い難い涼介のきつい双眸で見つめられるのは、心中穏やかではいられない。
だがここで怯んでたまるかと、拓海はつかえながらも言葉を綴った。

「だ、誰も紹介してくれなくて結構です。四人でその、セ、セックスなんてするつもりは俺にはハナからないんです。今日だって何かしんねーけど成り行きでつい……」

「つい、っつー割にはガンガンケツ振ってたよなあ」

「まあな」

「アニキのも旨そうに咥えてたし」

「啓介のを離さず二回連続でイッたのもお前だろ?藤原」

だよなあ、それからこれだって、と拓海の痴態を遠慮なく口にする彼らにまたブチ切れる。

「だあーもーうるさい!うるさい!うるさいっつの!!」

ハアハアと肩を喘がせる拓海に、叱られた悪戯っ子のように目配せしながら兄弟は黙りこむ。

「……とにかく、俺はもうあなたたちのどちらとも寝ません。あなたたちがどんなセックスをするのか興味があったのは確かだけど。お二人のおかげで、自分が実は性欲旺盛な大馬鹿野郎だと判りました。それはとりあえずお礼を言っておきます。でも、こんなことはやっぱり変だと思います。ていうか変です。男三人でセックスなんて」

「……お前、俺たちが嫌な訳?」

啓介が問うのに、拓海は頭を振った。

「……嫌な訳ないですよ。憧れてたし、興味もあった。だからアンタとも寝たし、今回だって、結局……」

そこまで言って、ふつりと拓海は黙り込む。啓介はつまらなさそうに唇を尖らせた。

ふいに、涼介が口を開いた。

「松本はどうだ?」

「……は?」

「だから、松本だよ。見ず知らずの女とは嫌なんだろ?じゃあ松本はどうだ?あいつは真面目だし好きな奴にはとことん優しい男だぜ」

非常識な世界にいきなり常識人が放りこまれたことに、拓海は涼介相手に思わず何言ってんだコイツとばかりに不審げな声を発してしまった。

「まつもっさんか……。ああ、確かにいいかも」

だが啓介は気にもせず合点したように肯く。

「何言ってんですか!?ていうかアンタら俺の話聞いてました!?」

「聞いてたけど……何が不満なわけ?お前、俺たちのこと好きだろ?んでお前はそんな清純そうなツラしてセックス大好き。俺たちとも相性がいい。で、三人で出来るなら四人でしてみようって提案じゃねえか」

「お前も松本なら不満はねえだろ?」

「不満とかそういう問題じゃないっスよ!大体松本さんがそんなことOKする訳ないでしょう!?松本さんをアンタたち兄弟と一緒にしないでください!」

「お前、本当に何も判ってないんだな」

「何がですか!」

「いいか?お前が大股開いて一言挿れて、って言えば松本だって男だからな。据え膳喰わぬはって言うだろ?」

「据え膳って……!そりゃ女が男を誘った時のことでしょうが!」

すると啓介が判んねえ奴だなー、と呆れて言う。涼介がそんな弟を笑いながら、拓海に向き直った。

「だから言ってんだろ?松本は好きな奴にはとことん優しくて甘いってさ」

「はあ?」

「判んねえなら、誘ってみろよ。『今度二人でどこか遊びに行きませんか』ってさ。あいつ、絶対断らねえぜ」

「だけどさー、まつもっさんって堅実そうじゃん。いざセックスって時にガチガチになんねえかな」

啓介のその言葉に、涼介は吹き出した。

「何?なんか知ってんのアニキ」

面白そうに身を乗り出した弟に、涼介が笑いを噛み殺しながら首を横に振る。

「まあ、それは当日のお楽しみってことにしておこうぜ。……でも大丈夫、お前が不満に思うようなことには絶対ならねえからさ、藤原」

「……て言うか、何で俺に向けて言うんですか」

不機嫌な拓海を気にする風でもなく、涼介が立ち上がって衣類を身に着け始める。

「とにかく誘ってみろよ。ちょうど明日はDの集まりがあるしさ」

「……いいですよ。そこまで言うなら誘ってみますけどね。たとえ騙まし討ちで連れてこれたとしても、絶対、絶対松本さんはこんなくだらねえことには参加しませんよ。つかマジあり得ないです。どんなことがあってもないっすよ。絶対ない!」

「判った判った。なんたってお前の大好きな優しい松本サンだもんな」

笑いながらあしらわれ、相手にされていないことにムッとしながらも拓海は押し黙った。
あの松本さんが、こんな馬鹿兄弟の馬鹿行為に乗る訳ねえじゃんか。そう、絶対の自信があった。いや、自信というものではなく、ただ単に常識で考えればあり得ない話ということ。

「明日、必ず聞けよ?」

涼介と啓介は相変わらず不敵に笑っている。 そのことが拓海の闘志に火をつけた。こうなりゃ何でもやってやる。
それで、常識人の松本から非常識なあの兄弟に『世間一般の常識』を突きつけてもらおう。ついでに、欲に負けて彼らの誘惑に乗ってしまった過去の自分を思いっきり諌めてもらおう。軽蔑されたって構わない。

「判りました。明日、必ず松本さんに聞きます。俺と、涼介さんと啓介さんとセックスしませんかって聞けばいいんですよね」

「必ずだぜ」

満足そうに言って、涼介は拓海の頬に口付けを落とした。







翌日、拓海はそれぞれの持ち場に散ったメンバーの中から、松本を探すと声を上げながら駆け寄った。

「松本さん!」

「ああ、藤原か。お疲れさん、今日は早いんだな」

オイルに塗れた軍手をしようとした松本の手首を、拓海の手が掴んでそれを止める。

「あの、話があるんスけど」

「話?なに?」

「ちょ、こっち、こっち来てもらえますか」

松本の腕を取り、人気のないところまで引っ張っていく。そして、兄弟との約束―――不本意なものではあるが―――を果たすべく、意を決して口を開いた。

そして、言い終えおずおずと松本の顔を見上げれば、拓海が想像した通りの唖然とした表情がそこにはあった。それからすぐに何を言っているのかと眉を寄せる表情に変わるのを見て、拓海が松本に軽蔑されてしまったことに内心傷付きながらも、涼介の言っていた通りにはならなかったことに安心していた時。
悪戯を思いついたように眉を上げて見せる松本に、あれ?と拓海が首を傾げる。何か、どこかで見た表情だ。そうだ。この表情は―――――。
気付いた拓海がはっとして振り返ると、視線の先には涼介たちがいた。勝ち誇ったようなその表情に、拓海はまた自分が嵌められたことを知った。

―――――ほんと、俺ってどうしようもない馬鹿だ……

そう心中で己を詰ることしか出来なかった。